主要ポイント
- 日本の求人指数は2023年3月17日現在131ポイント。2023年に入ってから緩やかな下降傾向であるが、依然として求人はパンデミック前よりも多い。
- 昨年と比較して、求人が増加した職種カテゴリと減少した職種カテゴリが混在しており、各々の経済活動のニーズと制約(パンデミックからの回復状況、原材料高騰等)によって異なる。ヘルスケアと、製造、倉庫管理などの財(商品)に関連する職種が減速している。
- 賃金は春闘前まででは上昇が限定的で、インフレ率を下回っている。
労働需要
景気動向指数の基調判断は2023年に入って足踏みを示しています。Indeed求人指数は、労働需要が高い状態を維持していることを示すものの、2023年に入ってから下降傾向です。日本の求人指数は、2022年12月下旬155.1ポイントでピークに達し、2023年3月17日現在131ポイントとなりました(前年同月比-5.7%、前月比+0.6%(いずれも季節調整済))。とはいえ、パンデミック前の水準である100を超えており、依然として労働需要は高い水準です。Indeed求人指数のほぼリアルタイムのデータは、こちらからアクセスできます。
日本以外の米国・英国・ドイツなどの国でも2023年に入って求人が減少しているため、一部は経済の不確実性などグローバルで共通するトレンドを反映しています。他には日本特有の事象もあります。少なくとも言えることは、結果として減少の程度は未だ大きくないということ、そして新規求人の据え置きによる影響は観測されるということです。
7日以内に掲載された新規求人のトレンドを見ると、2022年までは多くの新規求人があった一方、2023年になってからボリュームダウンしています。年末までを1つの区切りとして募集する季節性による減少に加えて、例年とは異なる外部環境の変化や採用スケジュールの変化によって求人内容の変更を行う場合や一旦求人掲載を据え置く場合などの影響が考えられます。
主要な職種カテゴリにおける求人
求人シェアが大きい、すなわち労働市場全体に最も大きな影響を与える上位20職種カテゴリに焦点を当てます。これら20職種は、Indeedの全求人の84.4%を占めます。
3月17日時点の指数(2020年2月1日=100基準)は、上位20職種の内、美容・健康以外全ての職種で100を上回っており、美容・健康においても、ほぼ100に近い値を示していることから、パンデミック前より、どの職種カテゴリも労働需要が高い状態を維持しています。
前年と比べると、求人が増加した職種カテゴリと減少した職種カテゴリが混在しています。
- 増加した職種カテゴリ:パンデミックからの回復が遅れながらも堅調な回復を見せる小売り(+19.6%)・飲食(+10.7%)や、特に人材獲得競争の激しい職種であるソフトウェア開発(+72.2%)、経営(+13.7%)
- 求人数があまり変化していない職種カテゴリ:運送(-1.3%)、機械工学(-1.9%)、営業(-1.9%)、クリーニング・清掃(-0.8%)、教育(-1.2%)。パンデミック時期も一定の需要があり、パンデミックが緩和してからの需要回復も早かったため、現在の労働需要は一時期の過熱状態よりは落ち着いた傾向。
- 減少した職種カテゴリ:介護(-38.6%)、製造(-43.0%)、倉庫管理(-33.3%)、看護(-40.3%)、保育(-36.2%)。
- 介護や看護などヘルスケア領域においては、パンデミックの状況と大きく連動します。パンデミックが深刻な時期または緊急事態宣言期間の終了直後、労働需要が特に大きく、直近はパンデミック前の需要レベルに回帰している傾向です。
- 製造と倉庫管理の求人減少理由は様々な可能性が考えられる中、1つは原材料高騰などにより様々な製品の生産量が減少傾向であることが挙げられます。出荷・在庫も同様に減少傾向です。従って製造や倉庫管理の活動自体を縮小し、2022年よりは求人を減らした可能性があります。それでもこれら職種カテゴリでは、パンデミック前より2倍ほど求人があるのです。
2023年3月17日より3ヶ月前の2022年12月17日と比べ、ソフトウェア開発(+19.4%) など一部の職種を除き、ほとんどの職種カテゴリで下落傾向です。すなわち、特定の職種に基づく要因以外に、前節の職種に共通する要因も、2023年からの下降要因となっていることを示唆します。
雇用率は堅調に推移
パンデミック以降2023年1月まで雇用率は上昇し続け、失業率は低下し続けています。2023年2月に雇用率が若干低下し、また足元の労働需要は少し緩やかになっているものの、とりわけ2022年の旺盛な労働需要のもと、雇用が改善されてきたことは明らかです。
インフレ率が高くても未だ賃金上昇率は限定的
労働市場がタイトである際は、賃金も高くなりやすい傾向があります。しかし、公表された最新月である2023年2月までの賃金上昇率を確認する限り、賃金上昇は未だ限定的です。
2023年2月時点で名目賃金上昇率は1.1%と、前月の0.8%と比べ若干改善したものの、インフレ率が依然として高いため、賃金は実質的に低下し、前年同月比-2.6%と大きく減少しています。
産業別名目賃金上昇率についても、基本的に春闘前までの賃金情報が反映されているため、全体として大きくありません。金融業・保険業(+5.1%)、運輸・郵便業(+3.3%)等では上昇傾向ですが、春闘で特に注目される製造業については-0.1%とほぼ賃金は変化していません。
より深刻な人材不足で市場がよりタイトな産業では、春闘の前でも上昇する傾向があります。例えば、宿泊飲食サービス等では直近の上昇率は高くはないものの、2022年後半の上昇率が大きく、競争上の優位性の確保や最低賃金の改定により、従業員への待遇の見直しが反映されたと考えられます。
2023年2月のインフレ率は3.3%と前月の4.2%よりも緩和したため、このような賃金上昇傾向の産業においては、インフレ率を超えるケースも生じていますが、全体としてはそのようなケースは多くありません。
結論:労働市場は2023年に入って少し落ち着いたものの、依然として求人数は多い。名目賃金上昇率は発展途上
日本の労働市場は、パンデミック緩和後の2022年雇用ブームから、少し緩やかなリバランスの状態になっています。ただし、これには一時的な原因も含まれるため、引き続き動向を確認する必要があります。
賃金上昇については2023年2月までは限定的であり、インフレ率を超えていません。高インフレ率は、労働者が実質的な賃下げに直面し続けるということであり、現在の春闘のような緊張した労使関係にも反映されます。春闘後の4月からの上昇率がどうなるか、引き続き注目されます。
方法
本レポートに掲載されている求人情報は、季節調整済の求人情報に基づいています。2017年、2018年、2019年の過去のパターンに基づいて、各シリーズを季節調整しています。全国的な傾向、職業分野、地理的条件など、各シリーズは個別に季節調整されています。
名目賃金情報の産業分類は、日本標準産業分類に基づきます。
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