主要ポイント:
- 20カ国*を対象に分析を行ったところ、リモートワークに言及した求人案件の割合は、2020年1月には平均2.6%に過ぎなかったのが、2022年9月には約9%と、パンデミック前より3倍以上増加しています。
- ソフトウェア開発、マーケティング、制作・編集・メディア運営、その他の知識集約的な職種は、リモートワークが最も実現しやすい領域であり、これらの職種でのリモートワークの求人数の割合の増加が最も高くなっています。
- パンデミック開始以降、リモートワークの求人数の割合の増加は国によっても大きく異なり、ベルギーでは4.2ポイントと増加幅が比較的に小さい一方で、スペインでは17.5ポイントも増加しています。この国による違いは、政府が課す移動規制の違いによって顕著に説明されます。
- 2021年春以降、各国で移動規制が緩和されましたが、特にデジタルインフラが整備されている国では、リモートワークの求人数の割合の顕著な減少は見られず、リモートワークが定着していることが示唆されます。
パンデミックはリモートワーク急増の引き金となりました。IndeedがOECDと共同で20カ国の求人情報を分析したところ**、調査対象国全体のリモートワーク可能な求人の平均シェアは、2020年1月には求人案件全体のわずか2.6%であったのに対し、2022年2月には9.5%と3倍以上になっていることがわかりました。この増加は、パンデミック関連の移動規制により、在宅でできる業務が多い職業でリモートワークの求人が多くなったことが大きな要因です。移動規制が緩和された後も、リモートワーク可能な求人の平均シェアは減らず、直近の2022年9月でも9.1%と2022年2月のピークに近い水準を維持しています。
*オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、ルクセンブルグ、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ポーランド、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカ
**2021年8月まではOECDと共同して分析し、その後のデータ拡張及び各国単体の市場の分析についてはIndeed独自で実施
リモートワークは特定の職種に集中
リモートワーク可能な求人は、パンデミック開始以降、ほぼ全ての職種において増加しましたが、特に知識集約型サービスで増加が顕著でした。例えば、国平均でのリモートワーク可能な求人の割合を見ると、ソフトウェア開発で約20ポイント、マーケティングで約11ポイント増加しましたが、飲食、小売り、ドライバー、クリーニング・清掃等では1ポイント未満でした。
これらの違いの主な理由は、単にリモートワークの実現が困難な職種があるためです。実際、ソフトウェア開発やマーケティングなどリモートワークがしやすい職種と、飲食やドライバーなどリモートワークが難しい職種の間で、リモートワークの割合の差は、パンデミックの間に3倍以上になりました。在宅でできる業務が多い職種では、リモートワークの求人割合が大幅に、しかもほとんど途切れることなく増加しました。一方、リモートワークでできる業務内容が少ない、対面業務を必要とする職種では、リモートワークの求人割合はそれほど増加せず、パンデミックの最も深刻な時期にのみ増加しました。これらの傾向は、パンデミック収束後、リモートワークにするかどうかが職種によって異なる水準で推移することを示唆しています。
リモートワーク可能な求人数は全体的に増加しましたが、それはリモートワークが難しい職種がリモートワーク可能になるような大きな変化を伴うものではありませんでした。
政府規制が強まれば、リモートワークが難しい職種ではリモートワークを可能にしなければ求人数が減るものと推測できますが、医療、清掃、小売などの職種は、求人数は減ることなく持続し、最近ではむしろ伸び率が高くなっています。その理由の一つは、多くの政府がこれらの仕事を重要視し、労働者に移動規制の免除を与えたことです。もう一つの理由には、接客業や小売業などリモートの程度が低い職種は、パンデミック時に大きな雇用喪失を経験し、規制が緩和されると、採用がより強く回復してきたことが挙げられます。リモートワークの求人の増加は、リモートワークが可能な職種における圧倒的な変化を反映しています。
パンデミックによる移動の規制がリモートワークのきっかけとなった
リモートワークが可能な求人割合の変化が国によって異なることは、その国の移動規制の強弱によって説明できます。アイルランド、イタリア、スペイン、イギリスなど移動規制の程度が高い国では、ニュージーランドなど規制の程度が低い国に比べて、リモートワークが可能な求人の割合が大幅に増加しました。
このような規制指数とリモートワーク可能な求人割合との正の相関は、規制の強化に伴ってリモートワーク可能な求人が持続的に増加した一方、規制が緩和された時期には、リモートワーク可能な求人が小幅かつ一時的に減少したことを意味します。しかし、2020年や2021年に比べて、2022年になるとリモートワーク可能な求人割合の変化と政府の移動規制との関係は薄くなっています。すなわち、政府の規制の程度が下がっている一方で、リモートワーク可能な求人の割合は平均的に減っていないことを意味しますが、その背景には、規制を緩和した際のリモートワークの継続姿勢が国によってより異なるようになったことや、リモートワークの増加が他の要因によって説明されるようになったことが挙げられます。
リモートワークの成長の鍵はデジタルインフラ
各国のインターネット普及率***も、リモートワークの導入に影響を与えます。パンデミックが深刻な時期に移動規制を強化したところ、各国ともリモートワーク可能な求人の割合が増加しましたが、規制を緩和したところ、インターネットの普及率が低い国ではリモートワーク可能な求人の割合が減少し、インターネットの普及率が高い国ではリモートワーク可能な求人の割合が維持されました。
***各国のデジタルインフラに関するデータ(人口10万人あたりの平均速度およびブロードバンド契約数)OECD Broadband Portalを参考
パンデミック収束後のリモートワークの定着は、その国のデジタルへの備えの程度に依存する可能性があります。インターネットの普及率が比較的低いイタリアでは、2020年1月から2021年4月にかけてリモートワーク可能な求人の割合が10ポイント以上増加しましたが、その後規制が緩和されてすぐに5ポイント減少し、そのまま低い水準で推移しています。一方、インターネットの普及率が高い米国では、規制のピークである2020年1月から2021年1月にかけて、リモートワーク可能な求人の割合が約7ポイント増加し、その後の緩和期間も徐々に上昇しており、企業がリモートワークを一時しのぎとして扱うのではなく、恒久的に組織に組み込んでいることが伺えます。
従業員の平均的なスキルや経営管理の質(人的資源の有効活用、業績モニタリング、目標設定など)など、他に可能性のある要因も考えられますが、興味深いことに現時点の我々の分析では、それら従業員の平均的なスキルや経営管理の質は、政府規制のリモートワークへの影響と体系的に関連していません。すなわち、少なくとも今回対象としたOECD20カ国において、スキルの平均レベルやマネジメントの質は、リモートワークの導入に対して重要な要因にはなっていないことを示唆しています。
日本の状況は今後より注目される
日本では、他のOECD諸国と同様に、政府の規制を足がかりに、リモートワークの導入が安定的に増えてきました。注目すべきは、規制のピークやリモートワークの普及が他国と比べて遅れており、直近の2022年9月も規制水準が高いことです。従って、今後パンデミックが落ち着き、規制が徐々に緩和された時に、リモートワークが持続するかどうかがよりポイントであると考えられます。
求職者はパンデミック以降リモートワークに関心をよせ、その関心は現在(2022年9月時点)も少しずつ増加しています。リモートワークに関する仕事の検索は、パンデミック前の2019年では全検索の1%でしたが、2022年では2%を超えることが多くなりました。緊急事態宣言の期間では検索数が減る傾向ですが、その直前に求職者は駆け込むように検索しているように見られます。これは、政府の規制が強まった際にリモートワークの求人検索が増えることを示唆しており、政府の規制は企業側の求人だけでなく求職者側の求人検索行動とも連動しています。求職者によるリモートワークへの継続的な関心は、企業選択の要因となり、将来的に規制が徐々に緩和されたとしても、企業がリモートワークを継続もしくは拡大するための後押し要因として機能するかもしれません。
結論:リモートワークは、デジタルインフラが整っている国ではパンデミック後も定着する可能性が高い
日本を含む OECD 20カ国の求人情報と政府の移動規制のデータを用いて、リモートワークと移動規制との関係性、リモートワークの継続性、そして職種による違い等について分析しました。
Indeedの分析の結果、政府が課した移動規制によってリモートワークが促進されたことが示唆されます。しかし、2021年春に規制が緩和されても、特にデジタルインフラが整備されている国では、今のところリモートワークの減少を引き起こしておらず、パンデミック収束後も、リモートワークは継続することが示唆されます。
今後リモートワークの普及から企業や労働者、社会が恩恵を得るには、公共政策が生産性や福利厚生に潜在的に与える効果を最大限活かせるようにすることが重要であると考えられます。これには、労働者が適切な労働環境(コンピュータ機器、オフィス、育児施設など)を確保すること、ベストマネジメントプラクティスの普及を促進すること(プレゼンティズムの文化から労働者の生産性のアウトプット指向の評価への移行するなど)、誰もが高速で信頼できる安全なインターネット接続にアクセスできるようにすること(地方など)が含まれるかもしれません。
方法
この記事は、IndeedとOECDが共同で作成したワーキングペーパー“Will it stay or will it go? Analysing developments in remote work during COVID-19 using online job postings data” (著者: Pawel Adrjan, Gabriele Ciminelli, Alexandre Judes, Michael Koelle, Cyrille Schwellnus and Tara Sinclair)に基づいています。
この記事は、以下のOECD加盟20カ国のIndeedの投稿をもとに作成しております。20カ国はオーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、ルクセンブルグ、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ポーランド、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカです。
本記事の求人の伸び率は、特に記載がない限り、2020年2月1日以降の季節調整済み求人数の変化率を7日間の移動平均で示したものです。2020年2月1日は、パンデミック前の基準値です。2017年、2018年、2019年の過去のパターンに基づき、各シリーズを季節調整しています。
リモートワーク能力の低・中・高への職業分類は、 Dingel & Neiman (2020).が開発したリモートワーク可能な仕事とそうでない仕事の分類に基づくものです。代替変数は、2019年の職業別リモートワーク求人情報に関するIndeed独自のデータを用いて構築することができます。
職種名や説明文に「リモートワーク」「在宅勤務」「テレワーク」などの用語が含まれている場合、または勤務地が明示的にリモートと記載されている場合、リモートワーク可能な求人情報であると判断しています。このような求人情報には、恒久的なリモート勤務と一時的なリモート勤務の両方が含まれるが、雇用者が指定しないことも多いです。
Dingel & Neiman (2020).に基づく指標はリモートワークの可能性を近似的に示していますが、Indeed独自のデータに基づく指標は、デジタルインフラの限定的な利用可能性、限られた労働者のITスキルや経営文化など様々な摩擦により、潜在的可能性とは異なる、実際の流行前の投稿でのリモートワークの情報を考慮したものです。さらに、求人ではリモートワークについて明確に言及されていなくても、後からオファーされたり交渉されたりすることもあります。職業間の違いを比較すると、どちらの指標も似たような結果を示しております。同様に、リモートワークに関する検索については「在宅勤務」「リモートワーク」「テレワーク」または同義のものを含む検索クエリと定義しています。
政府が課す規制のレベルは、Oxford COVID-19 Government Response Trackerで近似しています。累積症例数と死亡数に関するデータも同じ出所です。労働力の平均的な数値計算能力に関するデータはOECD Program for International Assessment of Adult Competenciesから、各国のデジタルインフラに関するデータ(人口10万人あたりの平均速度およびブロードバンド契約数)はOECD Broadband Portalから取得しています。製造業における経営の質に関する国別のスコアは、World Management Survey portalから引用しています。緊急事態宣言の期間の情報については内閣官房のホームページから取得しています。