主要ポイント
- 求人情報において、育休のみならず保育料補助やフレックスタイム制など子育て関連の福利厚生の言及が増加。正社員以外の求人では、フレックスタイム制の言及割合が2.6%(2019年3月と比べ2.2ポイント増)、育休と保育料補助の言及割合が1.3% (同期間0.8ポイント増)、保育料補助のみの言及割合が0.8%(同期間0.5ポイント増)。正社員の求人では、育休と保育料補助の言及割合が3.1%(同期間1.1ポイント増)、育休とフレックスタイム制の言及割合が2.1%(同期間1.3ポイント増)。
- 採用企業に対して子育ての何らかの福利厚生を求職者が期待することが増加。子育てに関連する検索数は増加傾向で、2023年3月では全検索100万件あたり980件。
- 子育てに関連する検索をした人がクリックした求人種類は、検索をしていない人のクリック先と職種カテゴリが異なるが、必ずしも育休の言及割合が高くない正社員以外の求人に対しても関心を示している。
子育てに関連する福利厚生の設定
育児と仕事の両立のために職場が提供する制度は、育休のみならず、保育料補助やフレックスタイム制度、復職支援制度、時短勤務、企業内託児所など様々なものが考えられます。これら福利厚生への言及が求人にどの程度あるかも、求職者また採用企業側にとっても重要な情報です。以降、これら福利厚生を総称して「子育て関連制度」と呼ぶこととします。
子育て関連制度の言及パターンは様々な組合せがあり得ますが、本レポートでは、割合の大きい組合せパターン「育休のみ」「保育料補助のみ」「育休と保育料補助」「フレックスタイム制のみ」「育休とフレックスタイム制」の5つを提示し、それ以外の組合せは全て「その他組合せ」として区分します。「〜のみ」とは、子育て関連制度のなかでは当該福利厚生のみであることを意味します。
段階的な育児・介護休業法の改正により、前回の分析から、正社員・正社員以外の求人において育休言及割合が上昇傾向であることが確認されました。しかし育休だけでなく子育てに関連する他の福利厚生の言及も増えています。
正社員以外の求人においては、フレックスタイム制のみの言及が4年前の2019年3月と比べ2.2ポイント増加し、全体で2.6%の水準となっています。育休と保育料補助の言及は、同時期に0.8ポイント上昇し1.3%となり、保育料補助のみの言及は0.36%から0.84%(0.4ポイント上昇)へと上昇しています。これらは、育休のみ言及割合11.2%(同期間伸び率3.5ポイント)と比べても無視できない数値です。
正社員の求人においては、保育料補助やフレックスタイム制を育休と合わせて言及するパターンが増えています。育休と保育料補助の言及が同期間に1.1ポイント上昇し3.1%となり、育児休暇とフレックスタイム制の両方に言及する投稿は0.8%から2.1%に上昇(1.3ポイント上昇)しています。
このように保育料補助やフレックスタイム制を中心に、子育て関連制度の言及が増えており、これら福利厚生に関して言及した求人の職種による違いを確認しました。
多くの職種カテゴリでは基本的に育休のみに言及する求人の割合が大きい一方で、他の言及パターンがより一般的になっている職種カテゴリもあります。例えば制作・編集・メディア運営では育休とフレックスタイム制を両方言及するパターンが普及しています。また正社員以外の求人において、アート・エンターテイメントでは、保育料補助のみ、あるいはフレックスタイム制のみを言及することがより一般的なようです。アート・エンターテイメントでは、専門性や独自性が求められる性質があり、個人の能力や経験によって企業側が継続して雇用したいニーズがある中で柔軟に対応する姿勢をとっていると推測します。また正社員以外の人事の求人においても、保育料補助のみを言及する割合も多いです。
関連制度の検索
保育料補助やフレックス制度など子育て関連制度に言及することが増加してきた一方で、求職者のそれらに対する需要があるのかどうかは気になるところです。
求人の検索に「育児」「子育て」等のワードを入れている場合、関連制度に何らかの期待をしていると考えられます。そこで、これら子育て関連ワード及びフレックスタイムの検索が増えているかを確認しました。
100万件あたりの子育てに関する検索数及びフレックスタイムの検索数は、パンデミック前から上昇し、その後パンデミックとなって大きく減少したものの、それ以降再度上昇しています。
パンデミック直後に大きく減少した理由は、他の検索キーワードが一時的に増加したためです。具体的には、パンデミックを通じてより積極的に職を得る必要があった年代や給与支払形態に関するキーワード、そしてリモートワークなど、いずれもパンデミックの影響と関係するキーワードで検索することがより代替的に増えたためです。
子育て関連制度に関心が強い人の求人の選好
子育て関連制度に関心の強い人はどのような求人を選好しているかを調べるため、前節の「子育て」に関連する検索ワードを入れた人の求人クリック行動に着目しました。
子育て関連を検索した人、フレックスタイムを検索した人、あるいは両方とも検索していない人の職種カテゴリと雇用形態の上位10クリック先(職種カテゴリ及び雇用形態の組合せを求人種類と呼ぶ。)を列挙すると、事務など共通した志望職種カテゴリがある一方で、それぞれクリック先の求人種類に違いがあることが確認されます。
子育て関連を検索した層においては、保育や介護、医療事務などの職に関心があります。また、子育て関連制度が正社員と比べ必ずしも充実していない正社員以外の雇用形態でも、関心が高いことは注目に値します。
フレックスタイムを検索した層においては、ソフトウェア開発や人事、クリエイティブ、マーケティングなど子育て関連を検索した層とは選好する職種カテゴリが大きく異なります。従って、子育てに関係なくフレックスタイムを希望する人も多いと考えられます。
それ以外の層では、概ね求人割合が多い職種カテゴリではクリック割合も多い傾向であり、製造や運送などのクリック割合が上位にランクします。
これらのクリック先の違いは、検索したキーワードによってIndeed上に表示された求人検索結果に影響し、また求人内で言及されている他の福利厚生によっても影響します。そのため子育て関連制度に関心をもつ求職者が子育てに関連するキーワードで検索した際に上位とならない求人においては、その求職者から求人をクリックされる機会が減少します。すなわち、たとえ同じ職種であっても求人情報に子育て関連制度に言及しないことで、雇用主にとっては、子育て関連制度に関心をもつ求職者からクリック機会を失っていることを意味しているのです。
子育て関連制度に対する求職者関心は増加傾向であり、採用企業も工夫してきている
育児のための所定労働時間の短縮措置等の制度を導入する企業は年々少しずつ増加しており、求人内でも育休のみならず保育料補助やフレックスタイム制など子育て関連制度の言及が増加していることが確認されました。
求職者側も子育て関連の福利厚生には関心を示しており、Indeed上の関連するキーワード検索は増加傾向です。子育て関連制度に一定の関心がある層は、確かに育休などがより言及された職種カテゴリをクリックする傾向があるものの、雇用形態については必ずしも育休の言及割合が高くない正社員以外の求人に対しても関心を示していることが明らかとなりました。
方法
正社員は雇用形態の中で正社員、時短正社員といった区分で無期雇用を表す。正社員以外は、契約社員、パート・アルバイト、嘱託、請負、派遣など明確に正社員以外の雇用形態が表記されるもの、また基本的に有期雇用であるものを表す。
子育てに関連する福利厚生の種類については、「育児のための所定労働時間の短縮措置等の各制度」を参考にし利用可能なデータを抽出。また、割合の大きい組合せパターン「育休のみ」「保育料補助のみ」「育休と保育料補助」「フレックスタイム制のみ」「育休とフレックスタイム制」の5つを提示し、それ以外の組合せは全て「その他組合せ」として区分。「〜のみ」は、子育て関連制度のなかでは当該福利厚生のみであると定義する。
子育てに関連する検索キーワードは、育児、育休、保育料補助に関するキーワードを使用。
職種カテゴリに関する図表の期間は、2022年10月から2023年3月までの期間を採用。前回のレポートと同様に、育児・介護休業法の改正による施行時期がどの項目も施行される10月からの期間を採用している。
現職と関心先で正社員・正社員以外の雇用形態が異なることが十分考えられるため、求人の選好を示すクリック割合を算出するにあたっては、正社員・正社員以外の雇用形態別に算出していない。