主要ポイント

  • 人口が減少する日本にとって、外国人労働者の流入は有益であるが、日本の求人に対する海外からの検索割合は、パンデミック前の水準である0.6%を下回り停滞している。
  • 海外から日本の仕事への関心が停滞している原因は米国からの関心の伸び悩みであるが、ベトナムや中国からの関心が拡大していることで一部相殺されている。
  • 海外からの関心が高い職種は、高度な専門性が求められるIT職から生産現場や接客の仕事まで多様な仕事を含み、典型的には現在の日本における外国人労働者の国籍別・産業別の分布を反映している。しかし将来の人気職種は変化する可能性に留意する必要がある。特にベトナム出身者の製造・建設から事務・ITへの職業選好のシフトは今後の外国人労働者の見込みに影響する。
  • 国際人材を獲得したい場合には、日本での仕事の魅力をよりアピールすることが必要である。そのためには求職者の検索キーワード等から関心の所在を読み取り求人に反映することや、高度IT人材の積極的な招致など、他国における海外からの人材受け入れ事例を参考にすることも重要である。

外国人労働者による労働供給の増加見込み

日本では、少子高齢化と人口減少に伴い、人手不足の問題が深刻化しています。この状況において、外国人の受け入れが、日本の労働供給を拡大するための重要な手段として注目されています。国立社会保証・人口問題研究所の2020年からの将来人口推計に基づくと、 2020年時点の日本人人口は1億2000万人超でしたが、50年後の2070年には8000万人以下に減少すると予測されています。一方、在留外国人の数は現在300万人以下ですが、将来的には1000万人を超える見込みです。

日本の2020年から2070年までの将来人口推計。青が在留外国人、赤が65歳以上、黄色が15歳から64歳、緑が14歳以下の人口を示す。
日本の2020年から2070年までの将来人口推計。青が在留外国人、赤が65歳以上、黄色が15歳から64歳、緑が14歳以下の人口を示す。

日本の外国人労働者数は、現在まで主にベトナムと中国出身者によって支えられています。厚生労働省による「外国人雇用状況の届出状況まとめ」によると、2022年時点で外国人労働者数は総計で180万人に上り、堅調に増加しています。ベトナム出身者がそのうちの25.4%を占め、次いで中国(21.2%)、フィリピン(11.3%)が続いています。ただし、ベトナム出身者の労働者数は急速に増加している一方で、中国出身者は2020年から微減の傾向にあります。米国出身の労働者は2022年時点で全体の1.9%を占めており、パンデミック前の2019年までは増加していましたが、パンデミック以降は横ばいまたは微減しています。

今後、外国人の労働供給を見込む上では、出身国によって働く産業が異なる傾向にある現状を理解し、将来的に産業選好が変化する可能性を考慮することが重要です。現在までのところ、日本は他国と比べて製造業に強みを持ち、この分野ではベトナム、インドネシア、ブラジルなどからの労働者の割合が高いように見えます。一方で、韓国や米国出身者のように経済が発展してきた国々の出身者は情報通信業、卸売小売業、教育学習支援業などで働くことがより一般的です。産業に対する選好は、労働者の出身国の今後の経済規模や経済成長によって将来変わる可能性があります。

図表の上半分は、日本の外国人労働者数の推移及び出身国別の内訳を示すもの。データ期間は2013年から2020年まで。図表の下半分は、出身国別に従事している産業のシェア(労働者数ベース)を示す。
図表の上半分は、日本の外国人労働者数の推移及び出身国別の内訳を示すもの。データ期間は2013年から2020年まで。図表の下半分は、出身国別に従事している産業のシェア(労働者数ベース)を示す。

これらの情報から、外国人労働者は増加傾向にありますが、国際的な人材獲得競争の中で、外国人求職者は様々な要因を検討して、働く国を選択しています。そのため、日本が外国人労働者を獲得する戦略を検討する際には、海外からの潜在的な関心層の規模を把握することが重要です。それは、日本のインバウンドの展望にも影響を与える可能性もあります。

そのような観点で、本レポートでは、Indeedの求人検索データおよび求人クリックデータを活用して、日本国外から日本国内の仕事への関心状況について分析していきます。

パンデミック緩和後、国際的な人材獲得競争から出遅れる日本

パンデミック緩和後、国際的な人材獲得競争が激化する中で、日本は他国に比べて遅れをとっています。国外からの求人検索の割合(=海外からの日本の求人検索数/国内及び海外から日本の求人検索数)の推移を、他の主要な環太平洋経済圏のIndeedサイトと比較して調査しました。その結果、パンデミックの規制が撤廃されてからも国外からの求人検索割合があまり上昇していない日本に対し、ほぼすべての国で同検索割合が伸びていることがわかりました。


例えば、カナダでは9月の求人検索の約12%が国外からのものです。これは2017年から2020年までのパンデミック前の平均6%を大きく上回りました。オーストラリアでも同様に国外からの求人検索割合がパンデミック前(2017年から2020年)の平均8%以下から18%以上に上昇しました。労働者不足の中、これらの国は積極的に外国人労働者のビザを発行しています。

韓国は非英語圏であり、地理的にも日本に近いですが、国外からの求人検索割合は増加しています。韓国における賃金上昇移民促進政策の導入が、外国人労働者の韓国への関心の高まりに一部寄与しているかもしれません。

一方、日本は2022年10月に「外国人の新規入国制限見直し」が施行されましたが、国外からの検索割合がわずかな増加に留まり、パンデミック前の水準である0.6%には達していません。

環太平洋経済圏の主要国別に、国外からの求人検索割合を示したもの。国外からの求人検索割合は、行き先国の全求人検索数に占める国外からの求人検索数で定義。期間は2017年1月から2023年9月で、月次3ヶ月移動平均値を示す。
環太平洋経済圏の主要国別に、国外からの求人検索割合を示したもの。国外からの求人検索割合は、行き先国の全求人検索数に占める国外からの求人検索数で定義。期間は2017年1月から2023年9月で、月次3ヶ月移動平均値を示す。

米国からの関心に大きく左右されるが、ベトナムや中国からの関心の着実な伸びがむしろ鍵

日本の仕事を検索する国外上位出身国は米国の比率が大きく(24%)、従って国外から日本への求人検索数は米国の関心の程度によって大きく左右される構図があります。2023年は2019年と比べて、米国から日本への求人検索割合は56.5%も下がりました。円安や全体的な賃金上昇率の鈍化などによって、求人検索先として日本の人気が相対的に落ち込んだと考えられます。しかし、米国のアウトバウンドの割合(米国から他国への求人検索割合)では、日本以外の他国への求人検索割合も全体的に下がっていることを踏まえると、米国国内の労働市場自体の規模やトレンドも十分影響していると考えられます。

一方で、外国人労働者の出身国で上位のベトナムと中国の日本への関心は着実に伸びており、検索割合は、2019年から71.5%、81.9%ほど上昇しました。同様にベトナム・中国から他国への求人検索先別割合を確認しても、両国とも日本は米国に次いで2番目の検索先であり、2023年に伸びが観測されます。ベトナム・中国から今後も日本への求人検索が増加するかどうかについては、自国の経済・労働状況以外に、米国やカナダなどの他の関心国との競争に大きく依存します。

日本に対する国外からの検索割合と2019年から2023年の検索割合の成長率を出身国別に示したもの。出身国全ての検索割合及び上位10カ国の検索割合を掲載。
日本に対する国外からの検索割合と2019年から2023年の検索割合の成長率を出身国別に示したもの。出身国全ての検索割合及び上位10カ国の検索割合を掲載。
米国・ベトナム・中国からのアウトバウンドの検索割合(当該国から他国への検索割合)について、上位10カ国分を示したもの。
米国・ベトナム・中国からのアウトバウンドの検索割合(当該国から他国への検索割合)について、上位10カ国分を示したもの。

海外からの関心が高い職種は多様であるが、職種選好の変化に留意する必要がある

パンデミック前と比べて全体的に国外からの関心が伸びた職種カテゴリは、「教育」(+3.1ポイント)、「小売り」(+1.9ポイント)、「ソフトウェア開発」(+1.9ポイント)、「制作・編集・メディア運営」(+1.4ポイント)、「ホスピタリティ・観光」(+1.0ポイント)でした。これらの5つ職種カテゴリは、全て米国からの関心が最も高いことが示されました。次いで、「教育」では中国、「小売」・「ソフトウェア開発」ではベトナム、「制作・編集・メディア運営」「ホスピタリティ・観光」では韓国が、2番目に関心が高い国として示されました。

国外から日本への求人クリックの中で職種カテゴリ間のクリックシェアを算出し、2019年から2023年にかけてシェアの変化が大きい上位5職種カテゴリを示したもの。また上位5職種カテゴリの国外からのクリックについて上位出身国を示したもの。
国外から日本への求人クリックの中で職種カテゴリ間のクリックシェアを算出し、2019年から2023年にかけてシェアの変化が大きい上位5職種カテゴリを示したもの。また上位5職種カテゴリの国外からのクリックについて上位出身国を示したもの。

これら関心が上昇した職種は国籍別の産業別労働者割合と整合的であり、特に米国における「教育」「ソフトウェア開発」に対する高い関心は実際に従事する産業と連動していると考えられます。

また職種自体は多様であるものの、これらの関心が伸びている職種カテゴリの特徴には「外国語の使用が求められる/有利に働く」「ITスキル等を必要とするナレッジワーカー」という点が含まれています。実際の検索キーワードには中国語や英語などの外国語、javaやQA (QAエンジニア)やITなどソフトウェア開発に関連する言葉が上位に上がります。

米国・ベトナム・中国出身者それぞれの、日本の求人への職種カテゴリ別関心を分析すると、特にベトナム出身者の関心のある職業が年々変化してきていることが注目されます。パンデミック前には関心の強かった「製造」「建設」では年々関心が減少傾向であるのに対して、「事務」「小売り」「ソフトウェア開発」などへの関心が最近は高まっています。すなわち、未だ製造への関心は根強いとはいえ、ベトナム出身者の職種の選好は、ベトナムの経済成長等により、よりナレッジワーカーの仕事に徐々にシフトし米国や中国出身者の選好と似通ってきていることを示唆しています。

各出身国からの日本の求人へのクリック割合を職種カテゴリ別に算出し、上位5職種カテゴリを示したもの。「上昇/下降」は2023年のクリック割合が2019年のクリック割合から上昇しているか下降しているかを表す。
各出身国からの日本の求人へのクリック割合を職種カテゴリ別に算出し、上位5職種カテゴリを示したもの。「上昇/下降」は2023年のクリック割合が2019年のクリック割合から上昇しているか下降しているかを表す。

米国から日本のソフトウェア開発職への関心は2022年から2023年にかけて増えてはいない

米国のソフトウェア開発職の労働市場は重要な変化を示しており、他国の労働市場にも影響します。米国では2022年を境に「ソフトウェア開発」の求人が大きく減少していきました。これは、米国のテクノロジー分野の労働者のレイオフの波と一致しています。この傾向は米国のソフトウェア開発職の労働者の供給を増加させたと考えられます。その結果、米国のソフトウェア開発職の労働者は海外にも機会を求めているようで、Indeedのデータはその仮説を裏付けています。米国の求職者が海外のソフトウェア開発職求人をクリックする割合は、2022年の1.6%から2023年には1.9%に上昇しました。しかし日本はこの傾向から大きな恩恵を受けていません。代わりに、メキシコ、ドイツやオーストラリアが主な関心先として浮上しています。この理由については特定が難しいものの、例えば、メキシコについては、米国のハイテク部門が元々メキシコ出身の労働者を多く雇用しており、彼らが雇用機会を求めて帰国を検討している可能性があります。また、ドイツのようにこの状況をチャンスと捉え米国のハイテク人材を実際に積極的に招致していることが考えられます。オーストラリアでは、米国出身者向けの”Skilled Work Visa”制度が、特にハイテク人材には関心を持たれているかもしれません。

日本の職種カテゴリ別の国外からの求人クリックのトレンドを見れば、ソフトウェア開発の仕事は日本への関心のある職種として位置付けられますが、それは米国の2022年後半以降のソフトウェア開発職の労働需要の低下から代替的に恩恵を受けているわけではないことが確認されました。

ソフトウェア開発職の求人について、米国からの米国国外求人へのクリック(アウトバウンドクリック)割合とその内訳となる国別の割合を示したもの。
ソフトウェア開発職の求人について、米国からの米国国外求人へのクリック(アウトバウンドクリック)割合とその内訳となる国別の割合を示したもの。

結論:国際人材を獲得したい場合は、日本の仕事の魅力をより打ち出す必要あり

多くの国で人材不足の問題を抱え、それゆえ国際的な人材獲得競争が高まってきている昨今、企業が国際人材を獲得したいと考える場合には、日本での仕事の魅力をより高めていく必要があるでしょう。

良い材料としては、ベトナムや中国など日本に対する関心が少しずつ高まっている国も一部確認されることです。一方で、楽観的になれない材料も確認されます。例えば中国からカナダへの関心が増えていることによって、日本が移住先として選択されにくくなる可能性や、ベトナムの職種の選好が変化していることによって従来よりも採用のマッチングが難しくなる可能性もあるでしょう。

外国人が日本の求人を探すときに、外国語やITスキル等スキルに重きをおく傾向が求人検索のワードからも確認されることから、企業は検索ワードの情報を活用することで、外国人求職者を惹きつけるチャンスに繋がるかもしれません。あるいは、米国のソフトウェアエンジニアを他国が積極的に招致している取り組みのように、他国の事例を学び、海外からの人材獲得戦略に活かしていくことも重要となるでしょう。

方法

この分析は、Indeedのウェブサイトの検索やクリックが記録されている国、検索者の国のIPロケーションに関するデータを用いています。これは、国内および国境を越えた検索とクリックを定義することに関連しています。

国内検索とは、検索を行ったIndeedウェブサイトと同じ国のIPアドレスを持つユーザーによって行われた検索です。国境を越えた検索とは、検索を行ったIndeedウェブサイトと異なる国のIPアドレスを持つユーザーが行う検索です。

クリックとは、Indeed上の検索結果に表示された求人情報をクリックし、求人情報の詳細が表示されることを指します。これは、掲載されている特定の職種に関心があることを示すものと解釈しています。検索の場合と同様に、クリックに関するデータは匿名化されており、個々のユーザーを追跡することはできません。

国際的な移動は、所得水準、政府の規制、地理的距離、文化、言語の障壁などが影響し、同様にIndeedの掲載求人データにおいてもこれらが同様に説明要因となることが明らかとなっています。
ソフトウェア開発職への関心の算定にあたっては、ソフトウェア開発職を志望する求職者がスキルの活用を重視するため相対的に他の職種カテゴリに異動することは少なく、ほぼソフトウェア開発職の求人のみを志望するという仮定を前提としています。この仮定については、Indeedのその他の記事(例:米国日本オーストラリア)によって支持されています。